名寄せの重要性‐名寄せにまつわる成功事例・失敗事例を赤裸々解説(後編)
CRMの運用を進める中での重要性
これまでの投稿で、CXを改善するために『名寄せ』が持つ意味の重要性は理解いただけたと思います。
不要だと言う話にはならないのはご理解いただけているかと。
今回の投稿ではERPにおける法人の単位をどうする等のMasterDataManagement側は放念しています
名寄せが静かなブームになった理由
名寄せに関する迷走が始まったのは、CDPベンダー各社が『弊社CDPを使うと名寄せが出来ます!』という営業トークをさかんに使う事に起因してしまっている印象があります。
他社さんの営業資料を見ても、CDPを導入する事で、貴社のデータを名寄せして!という営業トークがちりばめられていて、企業サイドが『CDP=高度な名寄せツール』であると言う勘違いを生むだろうなと言う印象しかありません。
実は、ChatGPTさんの回答にもあるように、
CDPには標準で名寄せ機能はありません。しかし、CDPには、顧客データの統合、整理、分析、可視化などの機能があります。それらを活用して、名寄せのための分析や可視化を行うことはできます。ただし、CDPが持つ機能を活用して名寄せを行うためには、複雑なデータ処理や分析が必要になります。
https://www.laplaced.net/2023/01/11/%e5%90%8d%e5%af%84%e3%81%9b%e3%81%ae%e9%87%8d%e8%a6%81%e6%80%a7%e2%80%90%e5%90%8d%e5%af%84%e3%81%9b%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%97%e3%81%a6chatgpt3%e3%81%95%e3%82%93%e3%81%ab%e8%81%9e%e3%81%84%e3%81%a6/
基本的には、CDPで出来る『名寄せ』には一定の限界が存在します。
CDPで実行できる名寄せの範囲としては、『ルールベース』で『ある程度自動的に』、『マーケティングオートメーション』で利用するための『名寄せ』の実行が出来る。
にとどまるため、逆に言うと、それ以上の名寄せは実行できません。
CDPで実行できる名寄せ技術の上限は、treasuredataさんのブログ記事を参照いただき、実行可能な名寄せの技術範囲を確認いただくのが良いかと思います。
基本的には、『webアクセスログとメール配信結果を紐づけた名寄せ』までは可能で、プラスしてルールベース(SQL)で名寄せを実行する事までは出来る。それ以上は出来ない、と理解しておくのが一番安全です。
名寄せが必要になるもう1つの理由
The Model型でリードを大量に収集して、営業活動をしていくには、リードの発生が大事という事は理解いただけると思いますが、ホワイトペーパーダウンロード等で収集する場合、重複リードが大量発生するのは、自明です。
ところが、MAの課金体形がコンタクト1人あたり〇円(実際は12,000/月から10,000単位とかになっている)ためコンタクト可能な単位であるメールアドレスもしくは携帯電話番号(SMSで連絡をする場合)の保有個数で課金が跳ね上がっていく事になります。
従量単位の割引も発生し、500,001+ 10,000件あたり ¥7,200/月となるため、1マーケティングコンタクト=0.72円~1.2円になると理解しておくと話が早いです
メッセージ通数は、だいたいコンタクトの20倍程度までは契約範囲内で送付出来ますが、それを超えると…(迷惑メールになるのでやめましょう…最大で1日12通メールマガジンを送付した知人の会社がありましたが、配信拒否されまくったそうです)
MarketingAutomationツールですが、実際日本国内では大量メールの配信と、開封有無の確認にしか使われていないケースが多く、開封後の態度変容の追跡で使われていない状況だったこともあり、最近ではCDPを導入する事で、web上の行動ログとメール開封を分析する機運が高まってきているようです。
※本来論では、MarketingAutomationツールに必ず付属している、シナリオステップでは、ウェブサイト上の行動ログを利用するため、当然のごとく、行動ログを利用する事が出来る(はず)なのですが、何故か行動ログと切り離された状態での調達が多い印象があります。(元々Salesforce Marketing CloudがExact Targetというメール配信ベンダーだったことも原因の一つかもしれませんが、Evergage社 を買収したことで、行動ログをファーストパーティークッキーを活用して取得できるようになっているので、導入検討される際は、値段は張りますが、ご検討いただくと良いかもしれません)
さて、ここで問題になるのが、CDPの容量課金側で、だいたい、上記のレコード課金の10倍程度の料金が発生することが多いです。
つまり、1マーケティングコンタクト=7.2円~12円/月のコストが発生します。
CDPを導入する規模の企業の場合、だいたい、100万人以上のマーケティングコンタクトが発生すると仮定すると、毎月720万~1200万円のコストになる訳ですね。さて、ここで、無理なリード収集をしていたと仮定して、重複を放置しておいた場合、、、何が起きるかというと、この数が10倍に膨れ上がる訳ですから、毎月7,200万~1億2000万円の…と考えただけでも恐ろしい状況になる訳です。
※計算間違えや誤解がある場合は教えてもらえたら幸いです。
※基本的にはメールアドレス単位で名寄せしたマーケティングコンタクトに変換して利用するとか、メール配信拒否者、メール不通になったお客様はマーケティングコンタクトから除外するなどのメンテナンスが必須になる事は言うまでもありませんね。
CDPを導入する事は否定はしませんが、1顧客及び1見込み顧客のデータメンテナンスとカスタマーケアにいくらの費用をかけても良いのかをきちんと試算する必要があります。
つまり、CDPの課金システムとの関係もあり、CDPを導入した際、マーケティングコンタクト数を必要最小限に保持しておくためにも名寄せが必要になるというお話だと考えています。
※実は、CDPだけを作りたいのであれば、WEB行動ログトラッキングシステムを別にして500万円位あればお釣りが来ます。MAツールは、一括メールの配信システムとの料金比較の上安価なシステムを導入するとして、CDPを導入したいが何を選択すれば良いのか?等のご相談はお気軽にご相談下さい。
名寄せにおける重要なプレーヤー
データホルダー、技術提供者の2種類が存在します。データホルダーには法人系と個人系の2系統があります。
CDPは一般的に技術提供者側に該当しますが、本来の『名寄せ』機能技術ベンダーと呼ぶには、必要機能が欠落し過ぎているとご理解いただくのが正しいです。
最近は技術提供者側がデータホルダーと提携してワンストップでソリューションを提供してくれるケースもありますので、専門ベンダー様に問い合わせると話が早いですね。
名寄せデータホルダー
法人系
- 帝国データバンク
- 東京商工リサーチ
- リスクモンスター
- ユーソナー株式会社(旧ランドスケイプ社)
法人データを名寄せする上では、上記プレイヤーが発番しているコード番号を利用する事で取引先の一値性をメンテナンスする事が可能になります。
与信管理でも活用する事を意図する場合は、D-U-N-S® Numberを利用する事が多いと思いますが、経理部さんに確認の上処理をするとスムーズです。コードを無料で検索が可能なTDBコードを利用するのも初期では有効です。
近年では、反社チェックを行う必要もあるため、企業規模が一定になった時点で、いずれかの与信管理会社様との契約が発生する事になるため、契約中の会社のコードを利用することで法人自体の1値性は担保可能です。
さて、各法人単位を1つの単位にする部分は、なんとかなりました(という事にしておきましょう)
法人単位の一値を担保するのは、実質これ以上は無理なので、1法人には1つの値を振るとだけ憶えておいてください
※企業様によっては、例えばトヨタ、〇〇工場、〇〇部門、〇〇部門と取引先を分けたいケースもあると思いますし、パソナさんのように~~~カンパニーのような仕組みを取っていて、各部門毎に経理部門のコンタクト先が違う等のケースも発生しますので、実業務に合わせた番号体系を取るようにする必要があります。
Salesforceには、親会社、子会社関係をデータとして保持できるため、親会社に法人を登録し、各部門を子会社として登録する等の運用方法もありますが、ERPとのシステム連携をした途端に柔軟性がなくなる事が多いので、注意が必要です。
データ連携時は『親会社(マスターデータとする部分)と経理担当、BILLTO(請求先)、SHIPTO(納品先)を連携する』として考え、通常のCRM利用データ(日々連絡先が変わるデータ)はERPの融通の利かない(変化させてはいけない)データと連携する事だけは回避したほうが良いです
個人系
メトロ(元々は電話帳データの販売を中心にしたビジネスを展開していたと記憶しています)
昔は電話帳データという安定の番号があったので、ある程度楽だった記憶がありますが、最近は一家1回線という構造が崩れたこともあり、名寄せへのインパクトは昔より下がったようにもお見受けします。
技術提供者に関して
Precisely Trillium メインフレームやコールセンターなどさまざまなデータを各種辞書機能・マッチング機能によりクレンジング・名寄せ・統合を行い企業の基盤となる精度の高いデータコンテンツを構築可能という点がかなり強いのと、日本国内での利用実績の多さ、データホルダー側からのデータのUPDATEがある点が強いです
結局最後は人間確認
自然言語処理を利用して、一致している可能性のある候補群(住所・氏名、携帯電話番号、メールアドレス、生年月日)を見つけられた場合も同一人として扱って良いのか悪いのかは、ビジネスによって分かれてしまうところです。
例えば、『秋山商事』という会社で、秋山白水さんという人と、秋山白海さんという人がいたとしましょう。ちょっと面倒なことに、この2人は、同じ携帯電話番号で登録してきていて、この2人が親子だったと想定した場合、
携帯番号が一致しているから、同じ人としていずれかのレコードを消して良いという話にはなりませんよね。
最近ではこの手のグループメールアドレスや、会社で1つのメールアドレス、電話番号しか持たないのに担当者が複数人いるという事象は減ってきているとは思いますが、サンプルとして記載しました。
企業名 | 苗字 | 名 | 生年月日 | メールアドレス | 携帯番号 | 住所 | create date | |
10001 | 秋山商事 | 秋山 | 白泉 | 1970/9/26 | hoge@hogehoge.com | 090-444-444 | 東京都北区十条仲原1-2-6 | 2023/1/1 0:00 |
10002 | 秋山商事 | 秋山 | 白海 | 2000/12/12 | hoge@hogehoge.com | 090-444-444 | 東京都北区十条仲原1-2-6 | 2023/1/1 0:01 |
10003 | 秋山商事 | 秋山 | 白泉 | 1970/9/27 | hoge@hgehog.com | 090-444-444 | 東京都北区重条仲原1-2-5 | 2023/1/1 0:40 |
10004 | 秋山 | 白泉 | 1970/9/27 | hoge@hogehoge.com | 2023/1/1 1:00 |
契約データであれば、概ねは入力と、チェックフローを経ているので、問題はありませんが、リードレコードのように大量に存在する事が正義な世界では、こんな感じで最後にはメールアドレスの一致すらしていないケースも発生します
昔話ですが、とある大学様で、Salesforceの無料トライアルを生徒の皆さんが大量に同時に入力いただいたのですが、その際、個人情報保護の観点から(どんなですか?)メールアドレスもgmail/hotmailそれ以外のデータが全てダミーというケースがあり、大慌てしたことがあります。(IPアドレスから逆引きして、大学様には以降ご注意いただくようお伝えしたのですが)
では、10001の顧客情報が取引先責任者=契約ありの状態のマスターデータで、2以降がリードデータだった場合はどうでしょうか。
流石にリードデータ時に誕生日を入力いただくことはないとは思いますが、正しいレコードがどれか分からなくなるのは否めないと思います。
全てのデータが契約者データだと仮定したときも、新しいレコードが必ずしも正という事ではないため、(ご入力等がある)ある程度の『名寄せ候補データ』作成後は、人間によるチェックや精査が必要になることは言うまでもありません。
結局…名寄せにはいくらかかるのか
代表的な名寄せの例の場合、マイナンバーが真っ先に思い浮かびます。
法律の関係で、マイナンバーを他のDBに名寄せすることが禁止されているため(目的外利用になるらしいです)、自発的に、マイナンバーを保険証や、還付金その他の支払先銀行に紐づける等を日本国民に依頼している訳ですが、保険証側、公金受取口座登録でそれぞれ7,500円ずつもらえるレベルでお金がかかると理解いただければ、費用換算が出来ると思います。
この方法を自己名寄せ方式と呼びますが、個人情報保護の問題もあり、何故か促進されません。1年間に利用した医療費の控除計算等が保険証だけで再計算しなくてもよくなれば便利になると思うのですが、そこまで国に管理されたくないとか色々な意見もあるのかもしれませんね。
このケースでは、法律の問題、名寄せをされたくない(と思われている)国民の意識、個人情報保護等様々な要素がありますが、複数の省庁に独立してまたがって存在しているDBを名寄せする事に対して1名寄せ7,500円支払っても、(多分外部ベンダーとの繋ぎ込みで1万円位のコストになっているのかと思います)名寄せする価値があるという事なのだと理解できますね。